恋愛編

病魔

あなたはどれほどあたしを見てくれているの?

あたしは最近どんどん黒い物に侵されているわ
いつまで、今まであなたと一緒にいたあたしでいられるかしら?
あなたに内緒で泊まっているあたしの病室
好きな果物 ラ・フランス
安売(やすうり)していたから2つ買ったの
1つはすぐに食べたのだけれど
もう一つは気づかないうちに、半分腐っていたわ
夜中になって急にラ・フランスが食べたくなったから
腐ったそれを果物ナイフで皮を必至にむいたの
熟し過ぎたそれからは、腐った汁が絶え間なくもれてくる
病室はすばらしすぎるラ・フランスの芳香が充満している
あたしが必至に握る果肉は屍肉のよう
あたしは必至にそれを貪る(むさぼる)

あなたといればいるほど月日が経って
それほど多くの隠し事をするようになるのは
あたしが必至によそおうのは何時(いつ)のあたし?
いつでも陽気であなただけを必至に想うあたしでいて欲しい

あなたはどれほどあたしを見てくれているの?

あたしは最近どんどん黒い物に侵されているわ
もちろん最近無菌室に入り浸っていることは内緒
もちろん最近吐血が激しくなっていることも内緒
あなたは菌ではないのでしょう?
あなたが貸してくれる本だけが唯一の窓口なの
今日はそれが無くて寂しくて死にそう
夜も眠れなくて、血ばかりを吐きそうだけれど
明日は、あなたと会える日だから
気づかれないように、安静にしておくわ

あたしはどんどん白くなってゆく
これからどんどん目が見えなくなっていっても
あなたの姿が心にしかいなくなったとしても
あたしはあなたへの虚偽(うそ)を貫いてゆくわ
だからあなたもあたしの虚偽に
気づかないフリをしていてちょうだい
これからもずっと
あの頃からずっと


あたしがいつか目を覚ましたら
あたしが優しさ(ガーゼ)につつまれて寝転ぶベッドの横に、
あなたは座りこんでいてくれるのかしら
きっとそんな事はないだろうけど
きっとそんな日は来ないだろうけど

あなたはいつまであたしを見ていてくれる?