Hanashi
OLの人と「ね?ほんっと最悪よねー。羽瑠ちゃんもイイ男見つけなよ。あ、でも言っとくけど、マークンはいい奴よ。」
「はぁ。」
「あん時は、お高くとまっちゃったけど、絶対。ぜーったい、この変な電車から生きてあの男を殴りにいってやるんだから!!!」
「はー、友紀子さんは、もう生きる気バリバリですね。」
「あったりまえでしょ。こんな所でくたばってたまるかってんの。ていうか、初めから死ぬ気もなかったし?まさか、羽瑠ちゃん迷ってたりするわけ?」
「・・・。まぁ。」
「えぇーもったいなーい。」
「?」
「だって、羽瑠ちゃん、将来かなり美人さんになるよ。今もきれいだし、化粧が似合いそうだし。私が言うなら、絶対よ。」
「あ、ありがとうございます。」
「今、受験で迷ってようと、学生生活が辛かろうと、それは、今だけ。これからは花の大学生。羽瑠ちゃんはこれからなんだから!!」
「え、あ、はい。」
「いい?絶対死んじゃだめよ。そうだ、向こうで会いましょ。これ、私の住所ね。」
友紀子さんは、自分の手帳のメモのところに住所を書き込んで私の制服のポケットにいれた。
「絶対、会いましょうね。」
「 」“はい”と言おうとして、後ろに冷気が漂った。
何だろう。と、思う間もなかった。
「篠原 友紀子さん。決まりましたか?」
「羽瑠ちゃん、これが例の『車掌さん』?」
「そうですよ、篠原 友紀子さん。で、どうなんですか?」
「当たり前に、ここを出るに決まってるでしょ。生きてね!」
「はい。了解しました。」
おもむろに胸に手を入れ、そこから出てきたのはベル。キャラン、キャラン。
綺麗な音だった。キャラン、キャラン。
すると、電車の速度は落ちてきて、止まった。
プシュー。
ドアが開いた。
そこは、電気が消えかけの普通のホームだった。
「降りて、左に曲がってください。トンネルがあります。決して振り向かないように。」
そういって、微笑んだ。
「当たり前でしょ。」
そういって友紀子さんは降りていった。
プシュー。
ドアが閉まった。
「貴女はどうですか?」
「生きます。」
「ふーん。あの人に触発されましたか?」
「え?」
「どっちにしろ、貴女はまだ迷っています。そのまま降りても喰われるだけです。」
「え?」
「ホームを出れば、そこはトンネルです。私は行けないので、見たことはないのですが。そこは、ボンヤリと暗い闇が満ちていて、ずっと前の方に灯が見えるのです。
そこでは、意志を持っていないものでないと歩けません。闇に飲まれていって、寒くなっていって、ボンヤリしていって、絶望が身体に刻まれていくそうなのです。」
「その後は?」
「知りません。飲まれれば終わりですから。」
「どうして、車掌さんは行けないの?」
「私は、この電車という一つの世界そのものであって、だから、ここに縛られるのです。だから・・・。いや、何でもありません。」
「そう・・・なんですか。」
よく分からない。
「まぁ、あせらずに。あの人は少々特殊です。他の方々はもっと悩んで決めます。」
「平均どの位ですか?」
「3日〜1週間。今までで一番長かった人は、46年です。」
「46年?!」
「はい、その人は、時間の感覚がないものですから。出た時、外とのズレで驚いたでしょうね。自分は、ほんの3日ぐらいだと思っていましたかね。
人にとって、ここは、安定していて、安全で、普遍で、悪意がないですから。」
「・・・・・・。出難い場所ですね。」
「まぁ、ゆっくり、していってください。まだ、あなたは1日しか経っていませんからね。
では。」
そういって、車掌さんは、車掌室に向かって、この車両から出て行った。
“もう1日経ったの?”