Hanashi
Death「そんな事っていうな!僕にとっては命より大事なんだから。君は、桃華ちゃんの――」
「そうですよ、勝手に人の死にたい理由を馬鹿にしては行けませんよ、葉山 羽瑠さん。」
「あんた、誰?」「車掌さん…。」
「車掌?この電車の?」
「はい、そうですよ、大柴 祐樹さん。」
「な、なんで僕の名前知ってるんだ?」
「おや、葉山 羽瑠さんはこの方に説明していなのですか?死にたいって聞こえたので説明して下さったのかと。」
「はい…。」「何だ?何の説明だ?」
「私が説明しますよ。本来これは僕の仕事ですからね。」
そういって車掌さんは微笑んだ。
「そうかー、僕、死にかけてるんだぁ。すごい、アニメみたい。でも僕の桃華ちゃんへの愛はやっぱり本物だなぁ。
ところで、車掌さん。僕のこの電車の滞在時間ってどのくらい何ですか?」
と、蕩けそうな表情をうかべながら、車掌さんに大柴さんは聞いていた。
「んーっと、だいたい…1年と4ヶ月ぐらいでしょうか?」
その瞬間だった。
「うそだぁぁぁぁ!!!」
大柴さんは狂った。
「どうしたんですか、大柴さん」
「もう、いない。もう、いないよぅぅぅ。」
「何が?」
「桃華ちゃんや、花菱様がぁぁ。『すきっぷ♪』は深夜アニメだったんだ。もとはゲームをアニメ化したんだけど。」
「戻って、見にいけば、いいじゃないですか。」
「無理だ。もう、やってないだろうし。グッズも、アニメショップに置いてないだろう。人気あんまり無かったみたいだし…。僕は好きだったけど。」
「その通りですよ。」
ゾクッとした。大柴さんも動きを止めた。
「現在、アニメ『すきっぷ♪』はほぼほとんどの人々の記憶から忘れ去られています。」
「それ、ホント?なら、僕生きる意味ないや。車掌さん、僕死にます。」
「本当ですか?後戻りはできませんよ?」
「あぁ、いいんだ。その、天国か地獄かは、分からないけど。この桃華ちゃん達を連れて行っていいかなぁ?」
大柴さんが示したのはさっきのカードだった。
「あーあ、僕この一年ちょい、何してたんだろ。」
「ずぅっと、カードを眺めて、『無い』って言ってましたよ。」
「あぁ、やっぱり、僕の桃華ちゃんへの愛は本物だ。」
大柴さんの目は虚ろだった。
「では、逝きましょう。」
その言葉がきっかけだったのだろうか。
大柴さんが、座っていた椅子の下がポッカリと開き、中は泥水が詰まっているかのような黒だった。
大柴さんは沈んでいく。
「あぁ、冷たいなぁ。これが死かなぁ?やっぱり生きてれば良かったかなぁ?」
その言葉がきっかけだったのだろうか。
大柴さんはいきなり目をカッと開いた。
「死にたくないよぉ!生きたい!生きたい!生きたい!!」
もがく。もがく。大柴さんは泥水から必死にあがろうとする。
だけど、大柴さんは沈んでいく。
「助けて!君、そこの君!」
手だけを私に向けてくる。引っ張りあげて欲しいということなのだろうか。
と、その時だった。今まで私の横で静かに大柴さんを見ていた車掌さんが吼えた。
「彼女を道連れにすんな!!お前ぐちゃぐちゃと、今更生きたいなどとほざくなや!」
そして、私からは見えない位置で車掌さんそ顔が崩れた。
それを見た瞬間大柴さんは静まった。
そして、
「ごめん、君。最後に女子高生に会えて良かった。」
大柴さんは静かに笑った。
「ところで、君の名前は―・・・」
大柴さんは沈みきった。最後は落ちたかのように一瞬で消えた。
ほんの少し前まで目の前にあった手も消えていた。
「…羽瑠…です。」
なぜだか、涙がでた。
「まだまだ時間はありますからね、貴女には。」
そう言って振り返った車掌さんはいつもの顔で静かに微笑んだ。