Hanashi

車掌さんの過去T

「少し待ってくださいね。今、『僕』自身の記憶を呼んでいますから。」
そう言って、車掌さんは、ただ目蓋を下ろした。寝たことがないと言っていた割りには、
まるで眠ってしまっているかのように穏やかだった。まるで記憶を捻り出しているようには見えなかった。
羽瑠は、待った。
「今までとは口調とか、えーっと、性格とかが変わってるかもしれないけどこれが僕だったから…」
「はい、大丈夫です。」
「ありがとう。」
そういって、、そう言ったがなかなか始まらなかった。
「…あ、ごめん。何から話そうかと思ったんだけど、とりあえず。僕はこの私ではないのです。」 「……」
「あ、ぶっ飛びすぎたね。」
そう言って微笑む顔は元のままっだった。その顔に安堵を覚えつつ羽瑠は続きを待った。
「そうだな。僕は元は貴女と、貴女達と同じ世界の、人間であって、同じ世界に住んでいた、本当にただの人間だった、」
「え、でも、車掌さんは悪魔とか堕天使な存在ではないんですか?確か…。」
「うん。確かに初めて会ったときにそう言ったと思う。嘘じゃない。この身体がそういう存在なんだ。」
目が合う。長くなりそうな話だった。
「結論から言うと、僕は二代目の車掌なんだ。この世界を持っていた元々の車掌は本当にそういう、まぁここでは悪魔としておこうか、悪魔だった。
そして、僕は貴女と同じ様に事故に合い、迷い、この電車に乗ってしまった人間だった。僕は、病んでいたんだ。普通の人間だったけど、精神病棟にいるような人間だった。
たくさん周りの人を困らせていたと思う。身体も傷だらけだったと思う。精神も。
電車の中で、時々叫んだと思うと死んだかのようになったり、時には持っていた物で皮膚を切り裂いたりして。
この、電車の中は静かだろう?
普通車掌は死ぬか、生きるかを決めた人間の前に現れて出口を作るか、稀に、、貴女のように尋ねて来る方の質問に答えるだけで。
だけど、車掌はそんな僕の姿、行為を見かねて自分から現れたんだ。」